私は「ふふ」っと残忍な笑いをもらしながら、「[……]君は、自分に与えられた天の使命を知ってる?」と言うと、座っていたロボットくんの座高が十センチくらい低くなった。
「それって、誰が言ってるんですか?」と言うので、「孔子だよ」と言うと、彼は「先生は天の使命を知ったんですか?」と突っ込んで来た。私は、「もちろん」と言って、「でももう五十年近く前のことだから忘れてしまった」と言って、更に、「知って忘れてしまうのと、初めっから知らないままでいるんとじゃ、実質が違うからね。人としての実質が」と追い討ちをかけてやった。可哀想な彼は「うーん」と考え込んでいたが、いい加減な年寄りの言うことなんか信じるんじゃねェよ。年寄りが年寄りの話を始めたら、もう若い奴はついてけねェんだから。
「私はまだ百歳ではないけれど、別に百歳だからおめでたいという公式見解はないんだぜ」と言って、私は、九十九歳なら「後一歩で百」だから白寿というが、百歳を祝う言葉はないと教えてやった。
(中略)
ほとんど『バイオレンスジャック』じゃないかと言うと、ガンダム系のロボットくんは、『バイオレンスジャック』ってなんですかと言った。
(後略)
(橋本治『九十八歳になった私』 講談社、2018.1 )
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