2018年12月30日日曜日

引用ノック0998:

夏の心の奥深く、人生はまだ私には甘く香る でも、私の心は孤独な狩人 寂しい丘で狩りをする  (ウィリアム・シャープ「孤独な狩人」)

(前略)
「ゲー、あんなのに部屋を貸さないで。ダミーなんてキモい」
 ダミーは「木偶(でく)の坊」という意味だが聾唖者を侮辱する言葉としても使われる。
 この映画『愛すれど心さびしく』は、一九七〇年代には何度かテレビで放送されていたが、八〇年代以降は見なくなった。(……)カーソン・マッカラーズによる原作小説『心は孤独な狩人』も当時、新潮文庫で出ていたが、だいぶ前から絶版だ。
(中略)
 共感を込めて描かれた登場人物すべての夢と希望が無残にも踏みにじられていく。この映画をテレビで観て、当時十四歳の筆者は強烈な衝撃を受けた。
(……)
 シンガーはコープランドの娘に、父がガンであることを教えてやる。父娘は和解する。それは、この映画で示される唯一の救いだ。
(中略)
 実は、原作には、映像化不可能と思われるエピローグがある。
 ミックは音楽の夢を捨てずに厳しい現実と戦っていこうと決意する。そんな事の成り行きのすべてを見守っていたのはシンガーの行きつけの食堂の主人ビフだった。深夜、店じまいの時、ビフは突然、雷に打たれたように、「無限の時の中の人類の営み」を一瞬で見渡してしまう。それは愛と勇気と苦闘の歴史だった。しかしその直後、人類の営みが挫折してゆくヴィジョンが彼を襲う。
 人類は苦しみ続けなければならないのか? おれは何をするべきなのか?
(後略)

(町山智浩『トラウマ映画館』「25 THE HEART IS A LONELY HUNTER ◆誰でも心は孤独な狩人 『愛すれど心さびしく』」 集英社、2011年)

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