2016年5月8日日曜日

引用ノック0856:Qui-12

公爵家の聖職者は、先ほどから巨人だの悪党だのが頻繁に出るのを聞いて、この人物こそドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャに違いないと気づいた。つまり、公爵がいつもその伝記を読んでいるのを、自分が見とがめて、そういうばかげたものを読むのは愚かなことだと、何度もいさめたことのある、あの物語の主人公に違いないと悟ったのである。そして司祭は、自分の懸念していたことが現実になったことを確認すると、激しい怒りをあらわにしながら、公爵に向かってこう言った──
(中略)
それから怒りの矛先をドン・キホーテのほうに向けて、こう言った──
(中略)
ドン・キホーテは威厳のある聖職者の言葉にじっと耳を傾けていたが、相手が言い終るやいなや、公爵夫妻に対する敬意など意に介することなどなく、すっくと立ちあがると、憤怒をあらわにした険しい顔つきで、次のように言った……
 しかしながら、この応答はそれだけで次の一章を構成するに値するであろう。

(セルバンテス『ドン・キホーテ 後篇(二)』「第31章」 牛島信明訳、岩波文庫 2001年)

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