如水はひどく義理堅くて、主に対しては忠、臣節のために強いて死地に赴くようなことをやる。
(中略)
秀吉は高らかに笑った。だが、カサ頭は食えない奴だ。頭から爪先まで策略で出来た奴だ、と、要心の心が生まれた。官兵衛は馬を並べて走り、高らかな哄笑、ヒヤリと妖気を覚えて、シマッタと思った。
(……)
秀吉は呆れ返って、左右の侍臣をふりかえり、オイ、きいたか、戦争というものは、第一が謀略だ。このチンバの奴、楠正成の次に戦争の上手な奴だ、と、唸ってしまった。
けれども、唸り終って官兵衛をジロリと見た秀吉の目に敵意があった。又、官兵衛はシマッタと思った。
(中略)
一方家康は真田昌幸に背かれて攻めあぐみ、三方ヶ原以来の敗戦をする。重臣石川数正が背いて秀吉に投じ、水野忠重、小笠原貞慶、彼を去り、秀吉についた。家康落目の時で、実質主義の大達人もこの時ばかりは青年の如くふてくされた。
秀吉のうながす上洛に応ぜず、攻めるなら来い、蹴ちらしてやる。ヤケを起して目算も立てぬ、どうとでもなれ、と命をはって、自負、血気、壮んなること甚だしい。連日野に山に狩りくらして秀吉の使者を迎えて野原のまんなかで応接、信長公存命のころ上洛して名所旧蹟見たから都見物の慾もないね。於義丸は秀吉にくれた子だから対面したい気持もないヨ。秀吉が攻めてくるなら美濃路に待っているぜ、と言って追い返した。
(坂口安吾「二流の人」 ちくま文庫『坂口安吾全集 05』ほか収録)
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