2016年4月4日月曜日

引用ノック0838:EP2(悪霊02)

どうあがいても わだちは見えぬ、
道踏み迷うたぞ なんとしょう?
悪霊めに憑かれて 荒野のなかを、
堂々めぐりする羽目か。
…………………………………
あまたの悪霊めは どこへといそぐ、
なんとて悲しく歌うたう?
かまどの神の葬いか、
それとも魔女の嫁入りか?
A・プーシキン

 そこなる山べに、おびただしき豚の群れ、飼われありしかば、悪霊ども、そこの豚に入ることを許せと願えり。イエス許したもう。悪霊ども、人より出でて豚に入りたれば、その群れ、崖より湖に駆けくだりて溺る。牧者ども、起りしことを見るや、逃げ行きて町にも村にも告げたり。人びと、起りしことを見んとて、出でてイエスのもとに来たり、悪霊の離れし人の、衣服をつけ、心もたしかにて、イエスの足もとに坐しおるを見て懼れあえり。悪霊に憑かれたる人の癒えしさまを見し者、これらを彼らに告げたり。  
                      ルカ福音書、第八章三二─三六節

第一部

第一章 序に代えて──
ステパン・ヴェルホーヴェンスキー氏外伝


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 今日までなんの特記すべきこともなかったわが町において、最近、相次いで起ったまことに奇怪なる事件の叙述に手を染めるにあたり、私は、おのが非才のいたすところとはいえ、いささか迂遠なところから、すなわち、才能ゆたかにして最も尊敬すべきステパン・トロフィーモヴィチ・ヴェルホーヴェンスキー氏の一代記にかかわる若干のディテールからして、稿を起こすことを余儀なくされている。とはいえこのディテールは、本題の物語のほんの前置きをなすにすぎないのであって、私が記述しようとする出来事そのものは、追ってまた展開されることになるのである。
(後略)

(ドストエフスキー『悪霊(上)』江川卓訳、新潮文庫 1971年)

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