2015年12月7日月曜日

引用ノック0800:伊東谷抄

そして彼は、優しげな微笑みを浮かべた。
「……お嬢様……雨が降りそうなときは……コートをお召しになることを……忘れないように……冷え込みますから……」
(中略)
「ずいぶん用意がいいんですね」
わたしがそういうと、彼女はやや苦笑して、
「まあね──今まで、ちょっとずぼら過ぎたから──それに、これからは注意してくれる訳じゃないし──いや」
 彼女は寂しげな表情をみせ、そして微笑んだ。
「そうね、これからはいつでも見守ってくれているような気もするわ。だから、それにふさわしい生き方をしなきゃね」
 その微笑みはとても穏やかで、吹っ切れた強い精神を感じさせた。彼女はきっと優しい家族に恵まれていたんじゃないかな、とわたしは感じた。何を言っているのかはよくわからないが、別に聞いても仕方ない感じだったので、わたしも細かくは問いたださない。
(後略)

(上遠野浩平『ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ』)

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