「そちにいっておるのじゃ、騎士よ」とシャルル・マーニュは重ねて申します、「朕に面を見せぬのはどうしたわけじゃ」
口元の鎖帷子(かたびら)から、きっぱりとした声がして、「それがしは、おり申さぬからでござる、陛下」
「なんと!」と皇帝、「わが軍勢には、おらぬ騎士までおると申すか! ちと面を見せい」
アジルルフォはなおも一瞬ためらうかに見えましたが、やがて意を決したように、だがゆっくりと面頬を上げました。虹色に輝く羽根飾りをてっぺんに頂いた甲冑の中には、はたして、誰もおりませぬ。
「ややっ、これはなんと!」皇帝は申します、「じゃが、そちは、おらぬのに、いかようにして奉公しようというのじゃ」
「意志の力と」アジルルフォは言うには、「聖なる大儀への信仰によってでござる」
「そうじゃ、そうじゃ、よくぞ申した、人はさようにしておのれの務めを果たすものぞ。とはいえ、そちは、おらぬにしては、元気がよいのう」
アジルルフォはしんがりに控えておりました。皇帝はもうすっかり閲兵を終え、馬を返して、幕舎の方へと去って行きます。皇帝はもう年で、厄介なことはなるべく考えないようにしているのでございました。
(イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』脇功訳)
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