でも、かまわない。彼女はうなずいて、もう一度手を振って、そしてまた歩き出した。
後門の所には一台の車が停まっていて、一人の男が待っていた。例の、ミセス・ロビンソンの後釜(あとがま)だ。
「待たせたわね」
「いえいえ、もっとゆっくりでも良かったぐらいですよ」
男はにこにこしながら言った。身なりのいい、すっきりとしたシルエットのスーツを見事に着こなしていた。しかし靴や腕時計などが妙に派手である。それが似合っていた。
(中略)
「──ああ、また赤信号だ! くそ、今日はよく引っかかるな!」
それまでの話など関係なく、唐突に毒づいた。話は終わり、と態度で言っていた。
「…………」
朱巳は無表情だ。
(……)と、ため息をつくと、それが合図だったように車は青信号で勢いよく、朱巳の知らぬ何処(いずこ)かに向かって発進した。
(上遠野浩平『ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド』)
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