2014年5月1日木曜日

引用ノック0605:アポロドーロス(編纂者)

これに反してアポロドーロスの伝える神話伝説ははるかに峻厳な、ときとしては近代的感情にはあまりにも酷な、野蕃なものが多いのである。この書の中に語られている英雄伝説はその代りに真の意味での古典時代ギリシアの伝承を真面目(まじめ)に、忠実に伝えている。著者は神話の伝承に対して僅かの例外を除けば、全然批判をせず、また異る伝承間の比較や研究も行わない。彼は平喘として相反し相矛盾する伝承を語るのであって、したがって同じ物語に関して異る場所において異る伝承がしばしば語られる。これはおそらく典拠となった参考書や悲劇が異る筋を持っていたためであって、その矛盾に対する無神経とも言うべき著者の態度は驚くべきものがある。

(高津春繁「まえがき」 アポロドーロス『ギリシア神話』岩波文庫所収)

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