2014年4月8日火曜日

引用ノック0592:サルペドン

「グラコウスよ、何故われら二人が、リュキエにおいて特に重んぜられ、上席に坐り肉も酒も他の者より多く飲みかつ食らい、皆が神の如く仰ぎ見てくれるのであろう、それのみではない、われらがクサントスの河辺に広大な王領──見事な果樹園や小麦の稔る田畑を持っているのは何故であろう。(中略)友よ、もしわれら二人がこの戦いを無事に切り抜けさえすれば、いつまでも老いも死も知られずにいられるものならばわたしも第一線で戦うこともなかろうし、男子がその名を挙げる戦場におぬしを送ることもなかろうに。さはいえ今のありようは、数も知れぬほどの死の運命がわれらの身に迫っており、人間の分際ではこれを逃れることも避けることもできぬ。されば勝利の栄誉は、われらが敵に与えるか、敵がわれらに譲るかは判らぬが、今は進んでゆこうではないか。」

(ホメロス『イリアス』「第十二歌」 松平千秋訳、太線部は引用者による)

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