それのはじまりは、やっぱりその後の色々のことと同じようにカラオケボックスの中でだった。
「……暗くて静かで、長くて遠い」
と、三都雄くんが訳のわからないことを言いだしたのだ。
「なによそれ? ぜんぜんわかんないわよ、そんなんじゃ」
とあたしはもうこの段階でさえ何度も何度も言っていた言葉をまた使っていた。その日は、あたしの予知した”血の匂い”のことをみんなで探ろうということになっていた。
(中略)
「血の匂いだな、やっぱり、お前と同じで」
彼は右肩を上げて言う。
「じゃあそいつは未来を暗示する香りよ。あんたとあたしは、やっぱりどっかで、また道端とかでぶつかるようことになるんだわ」
あたしは人差し指を立てて、女教師みたいなエラそうな態度できっぱりと言った。
そして二人して笑った。
その笑いは、前にしていたような底なしの陽気さはなかったけど、でもやっぱり──やっぱりかけがえのない温もりのある、そういう笑いだった。
(上遠野浩平『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー 「パンドラ」』「9. 血 ”Blood”」 1998年 電撃文庫)
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