書く方がまだましだと考える理由はほかにもあるだろうか? 少し前にプリモ・レヴィの『休戦』を読んだが、その中で作者は収容所で一緒だった人たち、この本がなければわれわれが出会うことのなかった人たちのことを描いている。その中でレヴィは、彼らはみんな家に帰りたがっていたと書いている。彼らは単に自己保存の本能だけでなく、自分たちが見たことを語り伝えたいという気持ちもあって、生き延びたいと思っていた。自分たちの経験を伝えることで、二度とあのようなことがくり返されないようにしたいと願っていたのだが、理由はそれだけではない。あの悲劇的な日々が忘却の淵に沈んでしまわないように、語り伝えたいと思っていたのだ。
われわれは誰もが、どれほど恥ずべきこと、苦痛に満ちたものであっても、突然われわれの記憶によみがえってくる生活の断片をすくい上げたいと思っている。
(エンリーケ・ビラ=マタス『バートルビーと仲間たち』 木村榮一訳 新潮社、2008年)
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