ところでこういう証言をする人物もいる。ロッテの有藤道世
(ありとうみちよ)三塁手である。
「仙台の南海戦でしたね。スコアが10対1ぐらいでロッテが勝っていたんですよ。8回に私が打席に立ったら野村さん、マスクの下でうたをうたっているんですよ。あれは参ったなあ。私もおどろいたけれど主審もおどろいていましたよ」
野村のうたっている歌は、石坂まさを作詞、曽根幸明
(そねこうめい)作曲、”圭子の夢は夜ひらく”だった。
〽十五、十六、十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くても
夢は夜ひらく
野村があの顔であの声で、マスクの下からこのうたをうたう。やり切れなさがにじんでいるようなシーンである。
(後略)
(近藤唯之『プロ野球 オレの必殺ワザ』「野村克也」 新潮文庫、1988年)
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