中年の男は鼻から血をたらしていた。手でおさえようともしていない。
男が歩いていく後を赤い血が点々と追跡するように落ちていく。
「どうしたんだろう」
(中略)
中年の鼻血男が次の車両に移動してしまってからやや間をおいて、あちこちの座席で笑い声が起こった。
「やっだあ ハハハハ」「ハナヂってさ、なんか懐かしい感じするよね」
「懐かしのハナヂおじさん」(中略)
『笑いというのは残酷な人々のものだな』
(中略)
「ああしてさ、ひとりで新幹線の通路をな、鼻血をポタポタと滴らせながら歩いている中年の男を、なんとなくうらやましいと思わないか」
(糸井重里『家族解散』 新潮社、1986年)
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