彼はまたピストルを取り出した。スタヴローギンはまじめな顔で彼を見ていた。
「仕方がない、殺したまえ」 静かな、ほとんど譲歩するような調子で彼は言った。
「[……]ちぇっ、せめて意地にでも、意地にでも、そろそろ目をさましたらどうなんだい! ええっ! 自分から額に弾丸
(たま)をぶちこんでくれというくらいなら、もうどうなったって同じことだろうが?」
スタヴローギンは奇妙な薄笑いをもらした。
「きみがそれほどの道化でなかったら、ぼくもうんと言ったかもしれないがね……せめてあと一たらしでも利口だったら……」
「ぼくはどうせ道化ですがね、ぼくの大事な半身であるきみには道化になってもらいたくない! ぼくの言う意味がわかりますか?」
スタヴローギンはわかっていた。おそらく、わかるのは彼一人だったろう。スタヴローギンが、ピョートルには情熱があると言ったとき、シャートフは驚愕
(きょうがく)したものである。
(後略)
(ドストエフスキー『悪霊(下)』「第三部」 江川卓訳 新潮文庫、1971年)
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