そう言ったあと、恐らく自分の耳を聾するばかりの満堂の喝采と賞賛の声が忽ちあがるものと思い、期待に胸をふくらませ、暫時佇立していた。ところが、意外にも、四方八方から彼の耳を襲ってきたものは、無数の舌、舌、舌から洩れてくる不気味なしゅっしゅっという声であった! 満堂の会衆が公然と発する軽蔑の叱声であった! どうしたことか、とその異様さに驚いたが、次の瞬間、こんどは自分自身の異様な変化にさらに驚いた。(……)そして、そこには腹這いになったっまま必死に、だが空しく、踠いている一匹の巨大な蛇の姿があった。
(ミルトン『失楽園(下)』「第十章」 平井正穂訳 岩波文庫、1981年)
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