2016年1月3日日曜日

引用ノック0813:ウナムーノ01

司祭と床屋とのあいだの議論の後、彼らは『無分別な物好き男』という馬鹿げた小説を読んでいたが、そのとき眠っていて夢を見ているドン・キホーテによって演じられたブドー酒の皮袋のめった切りという悲しい冒険が起こった。たとえドン・キホーテが夢の中で、覚醒時の偉業のために予行演習したとはいえ、セルバンテスはこの冒険については黙っているべきであった。それでもまあまあだったのは、失われたのがブドー酒にすぎなかったことであるが、しかしブドー酒全部を失ったとしても、そんなものは必要のないものであるから、ひとつもかまわなかったであろう。
 この冒険を正しく評価できるためには、われわれの知らないことを知る必要があるだろう。というのはドン・キホーテがそのとき何の夢を見ていたかということである。(中略)
 (……)ああした高笑いの瞬間に、宿屋の亭主の娘のこの微笑みは、慈悲の微風であった。

(ミゲル・デ・ウナムーノ『ウナムーノ著作集2 ドン・キホーテとサンチョの生涯』「第1部 第32章」 アンセルモ・マタイス、佐々木孝 共訳 法政大学出版、1972年)

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