2015年9月17日木曜日

引用ノック0763:34-b

「空の色が濁りました」と美禰子が云った。
 三四郎は流れから眼を放して、上を見た。こう云う空の模様を見たのは始めてではない。けれども空が濁ったという言葉を聞いたのはこの時が始めてである。気が付いて見ると、濁ったと形容するより外にしかたのない色であった。三四郎が何か答えようとする前に、女は又言った。

(夏目漱石『三四郎』 新潮文庫、1986年改版)

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