2014年11月5日水曜日

引用ノック0668: The Sun, the Moon, the Stars

……ダンテは、地獄のどん底で──そこはまた球形の地球の中心でもあるのだが──悪魔が水の環のなかに直立しているのを見かける。そして彼がこの邪しまな巨人の腰や腿を踏みこえて、その体毛の茂みに足をとられながら用心深くウェルギリウスのあとについてゆき、中心を過ぎると、彼はもう下降しているのではなく、昇り坂にさしかかっているのに気づく。いつしか反対側の世界に出て、ふたたび星を仰ぎ見ることになる。そこから見れば、悪魔はもう直立しているのではなく、天国からその正反対の世界に投げおとされた時のままの格好で、逆立ちしているのだ。悲劇と悲劇的なアイロニーとはわれわれを次第に狭まっていく円環の地獄のなかへと連れこみ、人格的な形をとって凝結したあらゆる悪の源泉を目撃させる。悲劇はもうそれから先にはどこにもわれわれを連れていかない。けれども、もしわれわれがアイロニーと諷刺のミュトスになお縋りつづけるならば、やがて中心点を過ぎて、ついに紳士然とした闇の王子(悪魔)が逆立ちしている姿に出会うことだろう。
(ノースロップ・フライ『批評の解剖』海老根宏訳 法政大学出版局、1980年)

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