2010年12月31日金曜日

引用ノック0079:みずからの内なる哲学──ウィリアムズ・ジェイムズ

(……)たとえばウィリアム・ジェイムズの『哲学の諸問題』は、「羊飼よ、汝はみずからの内に哲学をもっているか」という問いかけからはじまるんです。ウィリアム・ジェイムズはだれでもが哲学をもっているという考えかたなんですね。「向こうのはげ山がどんなに自分にとってみにくいものに見えるにせよ、自分を案内してくれる隣の人にとっては、自分が開拓したすばらしい業績の象徴なんだ」というのが彼の哲学のなかに出てきます。くり返しそれが出てくるわけだ。
 まあウィリアム・ジェイムズはうつ病もちだったからそういうふうに考えなければ、とてもやりきれなかったのかもしれません。うつ病になると、もう知識人も何もなくなる。うつ病になればほとんど動物的な意識の底へ沈みますからね。そんなときにも自分を支えうるものは何か。これがウィリアム・ジェイムズの哲学の問題だったわけですよ。

(鶴見俊輔『近代とは何だろうか』「民衆の姿と思想」)

0 件のコメント: