2017年5月29日月曜日

引用ノック0933

漱15 四月二十日(月)
   牛込区喜久井町一番地 夏目金之助より
   本郷区真砂町常磐会寄宿舎 正岡常規へ

[……]ただこの一編狂気爛漫わが衷情を寸断し、わが五尺の身を戦栗せしむ。『七草集』はものかは『隠れみの』も面白からず、ただこの一編……
 嗚呼狂なる哉、狂なるかな僕狂にくみせん。[……]

(中略)

漱18 七月十八日(土)
   牛込区喜久井町一番地 夏目金之助
   松山市湊町四丁目十六番戸 正岡子規へ

[……]
 
 ゑゑともう何か書くことはないかしら。ああそうああそう、昨日眼医者へいつた所が、いつか君に話した可愛らしい女の子を見たね。──[銀]杏返しに竹なはをかけて──天気予報なしの突然の邂逅だからひやつと驚いて思はず顔に紅葉を散らしたね。まるで夕日に映ずる嵐山の大火の如し。その代り君が羨ましがった海気屋で買つた蝙蝠傘をとられた。それ故今日は炎天を冒してこれから行く。
(後略)

(和田茂樹編『漱石・子規往復書簡集』「明治24年」 2002年、岩波文庫) 

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