「素材もいいし、それを殺してもいないし」
「……よくわからない。甘くないからかな」
十助は頬袋(ほおぶくろ)に餌(えさ)を貯めている猿のようである。
「専門外は未熟ね、あんたは」
「……うーん」
釈然としない表情だ。
寺月は、そんな彼をどこかまぶしそうな眼で見つめている。やがて食事が一段落すると、彼はおもむろに話し出した。
「さて、蝉ヶ沢さん」
(……)
(中略)
(……)
なんとなく詐欺師の印象がある。
「いやほんとに! こいつを作るために、製作者は鬼が待つ地獄の釜の中へわざわざ入って行ったのです! これもすべて憂鬱(ゆううつ)の呪(のろ)いに囚われた姫の笑顔を見んとする騎士の心意気というものです!」
(後略)
(上遠野浩平『ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師』)
0 件のコメント:
コメントを投稿