2015年11月14日土曜日

引用ノック0784:ACT1-3

玲が、こちらは的確に切り分けて巧(たく)みに食しながら言う。
「素材もいいし、それを殺してもいないし」
「……よくわからない。甘くないからかな」
 十助は頬袋(ほおぶくろ)に餌(えさ)を貯めている猿のようである。
「専門外は未熟ね、あんたは」
「……うーん」
 釈然としない表情だ。
 寺月は、そんな彼をどこかまぶしそうな眼で見つめている。やがて食事が一段落すると、彼はおもむろに話し出した。
「さて、蝉ヶ沢さん」
(……)
(中略)
(……)
なんとなく詐欺師の印象がある。
「いやほんとに! こいつを作るために、製作者は鬼が待つ地獄の釜の中へわざわざ入って行ったのです! これもすべて憂鬱(ゆううつ)の呪(のろ)いに囚われた姫の笑顔を見んとする騎士の心意気というものです!」
(後略)

(上遠野浩平『ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師』)

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