以前、一九三六年にサンダーランドがローカーパークでチェルシーと対戦し、3-1のリードから追いつかれて引き分けた試合後に、ゴールキーパーのジム・ソープが亡くなった。多くの人々は最初、キーパーのせいで勝てた試合を落としたと彼を責めた。チェルシーの二点目はソープがクリアを判断ミスしたためで、同点にされた三点目は、突進してきたチェルシーのフォワードのジョー・バンブリックに気を取られ、バックパスをミスして易々と同点ゴールを許したように見えたからだ。「ソープはこのシーズン中ずっと卓越したパフォーマンスを見せていたが、クロスボールの処理に関しては私を満足させてくれなかった」と試合翌日のサンダーランドエコー紙の記者は観戦リポートで書いた。「だが土曜日の試合での彼のミスは、根本的にそれとは異なるもので、チェルシーに与えた三点目は、彼が突進してきたバンブリックに『動揺した』ためとしか考えられない」。この記事が出た二日後、ソープは病院で亡くなった。度重なる体のぶつけあいで内臓までも著しく損傷し、あたかも糖尿病が悪化したかのような状態だったという。
記者は震撼した。「チェルシーの二つのゴールを防げなかったのはジミー・ソープの失態だと厳しい言葉でまくしたてていたのに、今あたかも言った覚えがないふりをしている人たちが大勢いる。失態を責められた男が、実は雄々しく戦い続けたヒーローだったことを彼らは知らなかった。「私も知らなかったし、ゴールキーパーというポジションに知っておくべきことを知ろうともしなかったし、これまで一度たりと触れたことさえなかったことをここに告白する」
ソープの死に衝撃を受けた人々は、ゴールキーピングには深刻な欠陥があると気づいた。サンダーランドエコー紙は競技ルール変更を求めた。
(ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神 ゴールキーパー進化論』 白水社、2014年 実川元子訳)
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