2014年9月11日木曜日

引用ノック0650:ソルボンヌ&トロンシュ

「コランてやつは、いまだかつて泥棒たちの側に存在したことのないいちばん危険なソルボンヌでしてな。それだけのことです。悪人どももそこをちゃんと承知しておるんです。彼は連中の旗印、ささえ、要するに連中のボナパルトなんですよ。連中はみんな彼のことを好いています。あいつは絶対に自分のトロンシュを、グレーヴ広場にさらしたりなんかしませんからな」
 ミショノー嬢には理解できなかったので、ゴンデュローが彼女に、自分が使ったふたつの隠語を説明してやった。《ソルボンヌ》と《トロンシュ》というのは、いずれも泥棒仲間で使われる力強い表現であって、彼らこそ、人間の頭をふたつの面から考えねばならないことを、最初に感じとった人種なのである。《ソルボンヌ》とは、生きている人間の頭、その分別、その思考をさす。《トロンシュ》(訳注 クリスマス前夜に燃やすような太薪)とは、首を切られてしまうと、頭がどれほど無価値なものとなるかを表すための侮蔑(ぶべつ)の言葉なのだ。

(バルザック『ゴリオ爺さん』「三 不死身の男」平岡篤頼訳、新潮文庫)
※訳注は割愛、太字部分、原文では傍点

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