「おれは、宿命なんていうものはない、という主張だ」 おれは金貨を二十枚ほどテーブルの上にほうり出して、そう言った。それがそのときポケットの中にあったありがねの全部だった。
「賭けよう」 ヴーリッチは、はっきりしない声で言った。「少佐、あなたに審判官になってもらいましょう。ところで、ここに金貨が十五枚あります。あとの五枚はあなたに貸しがありますから、友だちのよしみでそれをここに足してください」
「よかろう」と少佐が言った。
(中略)
「君はきょう、死ぬぜ」とおれは彼に言った。彼は急いでおれのほうにふりかえった、がその答えは、ゆっくりと、落ち着いていた。
「そうかもしれない──だが、そうでないかもしれませんよ……」
(中略)
「ペチョーリン君」と彼はつけ足して言った。「カルタを取って、ほうりあげてください」
いまの記憶では、おれはテーブルからたしかハートの一をとって、それを上にほうりあげた。
(レールモントフ『現代の英雄』「運命論者」 中村融訳)
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