「でも、努力すれば」
「専門棋士になるためには十代の頃に、どれだけ多くのものを身につけるかにかかっています。私はそれが出来ませんでした。私はもう二十三です。仮に今、戦争が終わって、これから死ぬほど頑張っても、専門棋士にはなれません」
「残念ですね」
「別に残念ではありません」
宮部さんはさらりと言いました。
「子どもの頃は小さなことで悲しんだり喜んだりしました。中学の時は、一高に進むか専門棋士になるかで本気で悩んでいました。またその夢が両方壊れたことで大いに悲しんだものです。でも、父と母が死んだことに比べたら、何ほどのこともありません」
そう言うて宮部さんは笑いました。
「でもね、今から見れば、それさえもたいしたことではありません。今度の戦争では、もっと恐ろしいことが日常に起こっています。(後略)」
(百田尚樹『永遠の0』「第六章 ヌード写真」)
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