どうやら彼には、あのいかにも流暢だけれども支離滅裂な文体がまるで宝石のように思えたらしく、本の中に出てくる恋文だの果し状だのを耽読して、その世界にひたすら没頭したのだった。彼の心をとらえたのは、たとえばこんな文章だった。
「私の理性を成す脱理性の理性。かくして私の理性は衰え果てて、今や私に残されたのは、貴方さまのお美しさをお恨み申し上げるという、わずかばかりの理性のみ」
こんなものを読み耽って頭が変にならないはずがない。
(原作:セルバンテス 訳・構成:谷口江里也『ドレのドン・キホーテ』)
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