2011年7月7日木曜日

100本ノックシリーズ再放送08

 では、さっそく。
“23本目”。

 若者にむけて大人が自らの過去を振り返り、記憶や感想、感情までを書き記すということは、大変難しいばかりでなく、時には危険をともなうことを警告しておく。(中略)
 永い時間の流れの中で、静かに刻々と変化させられていった価値観や美意識、ものの考え方とでもいったものが、知らず知らずのあいだにとんでもない所へ移ってしまっていた事実で、突然指摘され、それを元の位置へ戻す必要を認めながらも、衰えた意志や感性、能力を思うと、限られた人生の時間の中では、もう到底、不可能なことだと思い知らされる。
 その忸怩たる思いが死期を早めてしまうことにもなりかねないのだ。
(「警告」井上陽水『媚売る作家』角川書店)

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