2018年5月19日土曜日

翻訳候補(グーテン参照のこと)

「ああ、ヴォートランさん」と、両手を合わせながらヴィクトリーヌが言った、「どうしてウージェーヌさんを殺そうとなさるんですの?」
ヴォートランは二歩後退(あとしざ)りして、ヴィクトリーヌに見入った。
「こりゃまた話が違ってきた」と、彼がからかうような声で叫んだので、哀れな娘は真っ赤になった。「なかなかいい青年ですな、え、ウージェーヌ君は?」と、彼は言葉をついだ。「おかげでいいことを思いついた。このわしがあんたたちふたりを幸せにしてあげよう、かわいいお嬢さん」
(バルザック『ゴリオ爺さん』「二 社交界への登場」平岡篤頼訳)

「どうしてって、きみたちだけだからさ、小細工を弄せずわしを信用してくれたのは」と彼は答えました。
(バルザック「ゴプセック」芳川泰久訳)
「コランてやつは、いまだかつて泥棒たちの側に存在したことのないいちばん危険なソルボンヌでしてな。それだけのことです。悪人どももそこをちゃんと承知しておるんです。彼は連中の旗印、ささえ、要するに連中のボナパルトなんですよ。連中はみんな彼のことを好いています。あいつは絶対に自分のトロンシュを、グレーヴ広場にさらしたりなんかしませんからな」
 ミショノー嬢には理解できなかったので、ゴンデュローが彼女に、自分が使ったふたつの隠語を説明してやった。《ソルボンヌ》と《トロンシュ》というのは、いずれも泥棒仲間で使われる力強い表現であって、彼らこそ、人間の頭をふたつの面から考えねばならないことを、最初に感じとった人種なのである。《ソルボンヌ》とは、生きている人間の頭、その分別、その思考をさす。《トロンシュ》(訳注 クリスマス前夜に燃やすような太薪)とは、首を切られてしまうと、頭がどれほど無価値なものとなるかを表すための侮蔑(ぶべつ)の言葉なのだ。
(バルザック『ゴリオ爺さん』「三 不死身の男」平岡篤頼訳、新潮文庫)

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