ぼくが一本とり出して渡すと、野島さんはフタを指先でポカッとはがしてゴクゴクと一気にのみ、そして、ああうまいと言ってまた冷蔵庫の中をのぞきこんだ。
(……)彼はそう言うと大きく深呼吸し、目をクシャクシャとさせて、さあて、と呟いた。そしてぼくに右手を耳の上にあげて、機動隊員のような敬礼をして出ていった。(……)それからぼくはゆっくりと流しの前に行き、蛇口に口をつけて水道の水をゴクゴクとのんだ。
(中略)
「のむかい、これ?」と山崎さんは、右手に持っていた牛乳ビンを振ってみせた。そして兄貴が首をふると、自分で口にあてて一気にのみほした。
「さあて。ではみんな寝るか。」と兄貴が大きなあくびをしながら言った。
(中略)
ぼくはそしてゆっくりと門を開いて外に出て、まだまだ暗い闇の中を左右を見廻して牛乳屋のビンの音に耳をすました。
(後略)
(庄司薫『さよなら快傑黒頭巾』 中央文庫、1973; 初出 1969.11)
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