「[……]すなわち、これからまるまる二日のあいだ、サラゴサ街道のまん中に立って、ここにおいでの羊飼い姿の乙女たちこそ、この世でもっとも麗しい、そして、もっとも礼節をわきまえた女性であると、大声で唱える所存でござる。もっとも、拙者の言葉に耳を傾けておいでの諸姉諸兄のごめんをこうむって申しあげるが、わが思い姫の、比類なきドゥルシネーア・エル・トボーソだけは別でござりますぞ。」
(中略)
かくして、街道のまん中に立ちはだかったドン・キホーテは、あたりの大気をつんざかんばかりの大声で、このように呼ばわりはじめた──
「やあやあ、この道を行く方々、この道を行く方々、もしくはこの二日のあいだにこの道を通らんとする方々、旅人であろうと、騎士であろうと、従士であろうと、はたまた徒歩であろうと馬上にあろうと、ようくお聞きなされい! [……]」
彼はこの同じ台詞を二度くり返したが、そこでこの言葉を聞いた通行人、あるいは冒険者など、ただのひとりもいなかった。
[……]
「おい、そこのおっさん、早く道をあけるんだ! [……]」
(後略)
(セルバンテス『ドン・キホーテ 後篇(三)』「第58章」 牛島信明訳 岩波文庫、2001年)
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