「だって──死んだらその後のことなんかわからないのよ」
「しかし、その意志だけは残る。たとえそれがどんなに悪いことにしか見えなくても、何かをしようとしたこと、それに向かおうとした真剣な気持ち、そういうものは必ず他の者たちの中に残る。その者たちだって結局は途中かも知れない。だがそのときは、さらにその次に伝わる。そして──誰にわかる? その中の誰かは本当に世界の中心にたどりつくかも知れない……」
男は途中で消えるように、言葉を途切らせた。
(中略)
「水乃星透子(みなほしすいこ)」
「君は、人の”死”が見えるんだな」
(……)
「その奇妙な才能は、呪(のろ)われたものだと思うかい?」
「……わからないわ」
少女は無感動な声で答える。それについてどう判断していいかさえわからない、とでも言うように。
「誰にもそんなことはわからないさ。そしてそれが失敗かどうかも誰にも決められはしない」
男は空を見上げたままで、少女の方を見ないで言う。
「君がこれから何かをしたとして、それが途中で終わったとしても、君の次にも誰かが、それをもっとうまくやってくれるかも知れない」
「誰が?」
「それはひょっとすると、君の敵だった者かも知れない。ただの通りすがりの者かも知れない。まったく関係のない人かも知れない。知れない、知れない……そんなことは誰にもわからないよ」
そう言われて、少女もまた空を見上げる。
二人は黙って、同じ空を見つめる。
(後略)
(上遠野浩平『夜明けのブギーポップ』「パブリック・エナミー・ナンバー・ワン」;霧間誠一との会話)
0 件のコメント:
コメントを投稿