「……なんで俺、ここにいるのかな、とか思っちゃって……」
安能くんはそんなことを言っている。ひどく腑に落ちない、という感じの顔をしていた。
「なに言ってるの?」
敬も不安そうだ。
「なんだか──ここに来るために、その代わりに、すごく大切なものを何かなくしてしまったような……そんな気がして──」
安能くんはぶつぶつと呟いている。
「あなた、大丈夫?:
「安能くん、ちょっと去年いろいろあって……」
安能くんの彼女がそんなことを言っている。しかし、彼氏は女の子たちの声など耳に入らないみたいで、
「なにも心当たりはない。なにもなくしてなんかない、そのはずだ。そのはずなんだけど……なんだか知らないけど、とても大切なものだったんだ。はじめて見つけたもので……」
などとうわごとのように言っている。
そして、涙をボロボロと流し始めたのだ。
わたしもびっくりしたが、敬と彼女もびっくりした。
「な、なんなのよ? どうしたっていうの?」
「安能くん?」
「え?」
安能くんは、はっ、と我に返った。そして自分でも涙を流していることに驚いた。
頬を撫で回して、愕然としている。
「……なんで泣くんだろう、俺──」
茫然としている。
わたしはさすがにそれ以上見ているのに気後れして、その場から離れることにした。
(上遠野浩平『ブギーポップ・リータンズ VSイマジネーター Part1』)
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