2015年9月13日日曜日

引用ノック0762:QUI-01

かくして記憶をたどり、想像をはたらかせて、数多くの名前をこしらえたり、消したり、削ったり、付け足したり、こわしたり、またでっちあげたりしたあげく、ついにロシナンテと呼ぶことにした。彼の見るところでは、崇高にして響きの高いこの名はまた、この馬が以前(アンテス)は駄馬(ロシン)であったことを示すと同時に、現在は世にありとある駄馬(ロシン)の最高位にある逸物(アンテス)であることをも表わしているのであった。
 愛馬に願ったりかなったりの名前をつけてしまうと、今度は自分自身にも何かよい名が欲しくなった。

(セルバンテス『ドン・キホーテ 前篇(一)』「第1章」 2001年、岩波文庫、牛島信明訳)

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