2015年8月7日金曜日

引用ノック0752:

娘の姿を見ると、バルタザールは顔を赤くした。涙は流れずに、目だけが濡れてきた。娘の片手を、冷たい自分の指先で握りしめるだけの力はあった。そして彼は、もはや口でいうことは叶わない気持や考えのすべてを、その把握にこめた。それは神聖な、おごそかな何物かであった。今もなお生きつづけている頭脳の告別であり、感謝の思いにふたたび生き返った心臓の告別でもあった。(後略)

(バルザック『「絶対」の探求』 水野亮訳)

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