○甲州の吉田から二、三里遠くへ這入った処に何とかいふ小村がある。その小村の風俗習慣など一五坊に聞いたところが甚だ珍しい事が多い。一、二をいふて見ると、
総てこの村では女が働いて男が遊んで居る。(……)
この村には桑園菜畑抔(など)は多少あるが水田はない、また焼石が多くて木も草もないやうな処がある。
(中略)
この辺は勿論食物に乏しいので、客が来ても御馳走を出すといふ場合には必ず酒を出すのである。下物(さかな)は菜漬位である。女でも皆大酒であるといふ事ぢや。
(中略)
寝室に限らず余り掃除をする事がない。
(中略)
前いふたやうに機織の利が多いのにほかにこれといふ贅沢の仕様もないので、こんな辺鄙の村でありながら割合に貧しくないといふ事である。
この村には癩病(らいびょう)は多い.それがためかどうかは知らぬが、今までは一切他の村と結婚などはしなかつたといふ事である。
(五月二十九日)
(正岡子規『病床六尺』「十七」)
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