少しでも多く儲けたいという情念が、男を利子の計算機に変え、その計算機が彼の近親者を粉々に挽き潰してゆくのである。
さて、こうして一冊、また一冊と本を書き上げるたびにバルザックは、自分の書いた物語が、表面上はそれぞれかなり異なっているにもかかわらず、じつのところ、あるひとつの巨大な構造物の一部を成しているのではないかという思いを強くしてゆく。この構造物を何と称したらよいかはまだわからないが、それが個々の物語にとってある二次的な意味を持つことだけは確かなのだ。別々に見れば、個々の物語はそれぞれ固有の価値を持っている。しかし、それらがある建築物を構成していると考えたとき、そこにはまったく新しい視点が与えられるのである。(中略)だがそれをどう考えたらよいのかが彼にはわからない。(中略)
批評家たちは大方、あまりにも大量に、あまりにも早く書きまくるバルザックを軽蔑していた。彼らは奔流よりもせせらぎの方が好きなのだ。(……)批評界の大御所サント=ブーヴが彼を冷たくあしらう。バルザックはそれに苦しむが、じっと堪える。
(アンリ・トロワイヤ『バルザック伝』「第二部 4 異国の女、登場」尾河直哉訳)
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