「そこですよ、ミショノーさん、お答えしましょう……しかし」と彼は彼女の耳もとにささやいて言った、「こちらの方が、いちいち話の腰を折らんようにしていただけませんかな。そうでないと、いつまでたっても埒があきませんからね。そんなに自分の言うことを聞いてほしいのなら、この爺さん、よほどの金持ちでなくちゃならんですよ。《不死身》(トロンプ・ラ・モール)のやつは、ここへ来ると、堅気な人間の皮をかぶり、パリの善良な市民になりすまして、あまり目立たない下宿に宿をとりました。抜け目のないやつですからねえ! 絶対ぼろを出したりなんかしない。というわけで、ヴォートラン氏は一応、相当手広い商売をやっている、尊敬すべきということになっています」
「もちろん」とポワレは心のなかでつぶやいた。
(バルザック『ゴリオ爺さん』「三 不死身の男」平岡篤頼訳)
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