「ああ、ヴォートランさん」と、両手を合わせながらヴィクトリーヌが言った、「どうしてウージェーヌさんを殺そうとなさるんですの?」
ヴォートランは二歩後退(あとしざ)りして、ヴィクトリーヌに見入った。
「こりゃまた話が違ってきた」と、彼がからかうような声で叫んだので、哀れな娘は真っ赤になった。「なかなかいい青年ですな、え、ウージェーヌ君は?」と、彼は言葉をついだ。「おかげでいいことを思いついた。このわしがあんたたちふたりを幸せにしてあげよう、かわいいお嬢さん」
(バルザック『ゴリオ爺さん』「二 社交界への登場」平岡篤頼訳)
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