『アメリカの鱒釣り』の表紙は、ある日の午後おそくに撮られた、サン・フランシスコのワシントン広場に立つベンジャミン・フランクリン像の写真である。
(中略)
銅像の土台のまわりには、世界の四つの方角に向けて、四つの言葉が彫りつけてある。東に向けて、ようこそ、西に向けて、ようこそ、北に向けて、ようこそ、南に向けて、ようこそ。銅像のすぐ後には三本のポプラ。てっぺんを除いては、ほとんど葉がない。銅像はまんなかのポプラの前に立っているのだ。二月上旬、雨のせいで、銅像のまわりの芝生はどこもかしこも濡れている。
(……)
『アメリカの鱒釣り』の表紙に午後五時が訪れるころ、教会の向い側の公園に人が集まってくる。かれらは腹をすかしているのだ。
(……)
ベンジャミン・フランクリンの自伝を読んで、アメリカについて学んだのはカフカだったかな……「アメリカ人は健康で楽観的だ。だからわたしはかれらが好きだ」といったカフカ。
(リチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』 藤本和子訳 晶文社、1975年 : Richard Brautigan "Trout Fishing in America" in 1967)
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