2017年11月24日金曜日

引用ノック0950:

「おれは平気だ。」
「出て来い!」
山椒魚はどなった。そうして彼らは激しい口論をはじめたのである。
「出て行こうと行くまいと、こちらの勝手だ。」
「よろしい、いつまでも勝手にしろ。」
「お前はばかだ。」
「お前はばかだ。」
(後略)

(井伏鱒二「山椒魚」)

 私は煩悶した。地球が逆に回転するような大異変でも起こらないかぎり、「カカサン」などという用語など断じて復活しないだろう。古風なら古風になんとか一工夫して、せめて「母者(ははじゃ)びと」でも「たらちね」でもいい。もうすこし格好のつく用語を仕込んでもらいたかったと私はそればかり気に病んでいた。(後略)

(井伏鱒二「「槌ツァ」と「九郎治ツァン」」 )

(井伏鱒二『山椒魚・遥拝隊長 他七篇』 岩波文庫 1956年、1969年改版)

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