2017年7月30日日曜日

引用ノック0939:悪霊05


 彼女は彼のそばにすわって、本を開いた。
「あなたの読み方はすばらしい」まだ最初の一行も読まぬうちに、彼は相手をさえぎった。「わかりましたよ、わかりましたよ、ぼくのまちがっていなかったことが!」曖昧な、けれど有頂天な調子で彼は言い添えた。概して彼は絶え間ない歓喜の状態にあった。彼女は山上の垂訓を読み終った。
(……)
「いいですか」しばらく黙っていてから、彼は言った。「また何か読んでください、そう、適当なところを、あてずっぽうに、目についたところを」
ソフィヤは本を開いて、読みはじめた。
「出たところを、偶然に出たところを」と彼はくり返した。
「『ラオデキヤに在る教会の使いに書きおくれ……』(訳注 ヨハネ黙示録第三章十四節)
(……)
「それが……そんなこともあなたの本にはあるのですか!」彼は目をきらきらさせ、枕から頭を起しながら叫んだ。「ぼくはそんな偉大な個所があろうとは、ついぞ知らなかった! (……)おお、ぼくは証明してみせる。(……)ぼくらが証明するんです、ぼくらが!」
(後略)

(ドストエフスキー『悪霊(下)』 江川卓訳 新潮文庫、1971)

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