そうした演劇理論もまた大きな全体の一部である。また前の頁では、図式的な理性を見据えるかたちで、生命の自発的要素がいかに力強く立ち上がってくるかを見てきた。それは現実的なるもの(個別的なるもの)が、理想的なるもの(普遍的なるもの)に対立していたことと符合する。こうした複雑な二元性がセルバンテスの芸術を新たな、尋常ならざる道へと導いていった。その出発点というべきものを、十六世紀文化のよく知られた分野のうちに探っていくことにしよう。
読者諸氏は『ドン・キホーテ』前篇序文に述べられた、からかい気味な次の言葉を、もはや真にうけて聞くことはないだろう。
「なぜならこの本は始めから終わりまで騎士道の精神に対する攻撃だからね。それにそんな本のことはアリストテレスが夢想だにしなかったことだし、聖バシリウスも何ひとつ言っていないし、キケロだって知らなかったんだ」
(アメリコ・カストロ『セルバンテスの思想』 本田誠二訳、法政大学出版局、2004年)
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