(……)彼女、この石の眼を持つ不可思議な、永遠に愛される女神は、周りの人間たちを見ているのではなく、生を見ているのでも死を見ているのでもない。自分を求める人々の叫びなど、いっさい聞いていないし、石の膝の周りに捧げられる花輪にも、足もとで流される血にも気づかない。永遠の思想である彼女は静かにそこにあり、人々の間にいながらよそよそしく、遠く、目には見えない目標を凝視している。彼女は自分の名においてどんなことが為されているか、問うこともなければ知ることもない。
(中略)
ひとり自由の女神だけが、白い石に呪縛されたまま、身動きもしないで台座に座り、じっと遠く遠くの目に見えない目標を見つめている。彼女は何も見ず、何も聞かなかった。厳かな眼差しで、人間の野蛮で愚かしい行為の先にある、遠い永遠を見つめている。彼女は自分の名において、どんなことが行われているか知らないし、知ろうともしない。
(シュテファン・ツヴァイク『マリー・アントワネット』下巻 中野京子訳、角川文庫、2007年)
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