ぼくはこの文章を、うたのない世界の読者に向けて記している。
うたがないということは、世界に物理層しかない、歴史は単線的で現実はひとつしかない、人生はいちどきりでひとは死んだらすべてが終わりだということだ。そのような環境に生きる読者に、うたづかいたちの感覚をわかりやすく伝えるのはきわめてむずかしい。彼らの世界では、歴史はなんどでも書き換わるし、ひとは死んでもいくらでも再読込することができる。そういう世界で「生きる」とはなんなのか、結局のところ、ぼくにはその感覚は最後までわからなかったし、きっとみなさんもぼくの説明では理解できないと思う。ぼくは、それでもなんとか、この物語を完結までもっていくように努力する。
(東浩紀「パラリリカル・ネイションズ」「第九回」)
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