2014年6月12日木曜日

引用ノック0621:

「私がしてあげたことの返礼に、ドン・ホセ、約束がしてもらいたい、だれも疑わない仕返しなんてけっして考えないと。さあ、これがあなたの道中用の葉巻だ。では、ごきげんよう」
 私が握手の手をさしのべた。
 彼は答えずに、私の手を握りしめた。短銃とずだ袋を取り上げた。そして私には意味のわからない俗語で、老婆に何やら言うと、そのまま厩の方へと駆けだしていった。数秒後には、彼が曠野(こうや)を駆け足で飛ばす音が聞えてきた。

(メリメ「カルメン」堀口大學訳)

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