それにしてもぼくは問いたい、人がしばしば
このぼくに問うたように、影とはなにか?
どうして世間は意地悪く
これほど影を尊ぶのか
ぼくがこの世に生をうけて以来
五十三年の歳月が流れたが
その間ずっと影が命だったとでもいうのだろうか
命が影として消え失せるのに
シュミレールよ、ぼくたちはへこたれない
行く手を見はるかし、さえぎるものを容赦しない
立ち騒ぐ世間にめもくれず
ともにしっかり手を組んで
一歩でも目標に近づこう
笑いたくば笑え、謗りたくば謗れ
嵐のはてにぼくたちは港へと往きついて
心ゆくまま安らかな眠りを眠る
一八三四年八月 ベルリンにて
アーデベルト・フォン・シャミッソー
(シャミッソー『影をなくした男』「わが友ペーター・シュミレールに」池内紀訳)
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